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成年後見・遺言・相続手続 > 成年後見制度について

[ 成年後見制度とは ]

―認知症や精神的な障がいによって判断能力が衰えた人の権利を守る社会的な仕組みです。

 

 判断能力が衰えてしまうと、他人に対して自分の意思を明確に伝えることが困難になります。
そのため、自分ではこのように暮らしていきたいと思っていても、実際には自分の意図したものとは正反対の暮らしを余儀なくされることが多々あります。また、そのような状況に気がつかないこともあるでしょう。周囲の人たちにとっては本人の意思を確認するすべがありませんし、本人も自分の置かれた状況の判断がつかないからです。

 なかには、判断能力の低下を隠れ蓑にして、本人の財産の横領をくわだてる者も出てくるかも知れません。そのようなことが起こらないように、本人の意思を代行する後見人を選任して、本人の身上監護のために財産の管理を行わせる制度が成年後見制度です。

 成年後見制度では、本人を成年被後見人、後見人を成年後見人と呼びます。

 

 

[ 成年後見制度の種類 ]

成年後見制度には、①法定後見制度と②任意後見制度の二つがあります。

①法定後見制度

既に判断能力を失っている方を保護するための制度で、保護の内容は法律であらかじめ決められています。

 

②任意後見制度

元気なうちに信頼できる人との間で身上看護とそのための財産管理の契約を結んでおき、将来、判断能力が低下した場合にその内容に則った保護を受けるための制度です。

通常、成年後見制度という場合には、法定後見制度のことを指す場合が多いようです。

 

 

[ 成年後見制度の種類 ]

 認知症や精神的な障がいによって判断能力が低下した場合に、家庭裁判所によって選任された成年後見人が本人に代わって、身上監護のための手続きや財産管理などの業務を行う制度が成年後見制度です。

◆成年後見制度の類型

成年後見制度は、制度を利用する人の状態に応じて、表のように3つの類型に分けられています。どの類型にあてはまるのかは、医師の判断によるものとされています。

 

名 称

障 害 の 程 度

補助

自分の行った行為を弁職する能力が不十分であること

保佐

自分の行った行為を弁職する能力が著しく不十分であること

成年後見

自分の行った行為を弁職する能力が日常的に欠けていること

 

 

◆類型ごとに認められる権限の内容

(1)成年後見
もっとも広い権限が認められています。

成年後見人には、成年被後見人(支援を受けるひと)が行った日常生活上の
行為以外のすべての行為について、取消権と同意権が認められています。
成年後見人は、成年被後見人の行った行為を取り消すことが出来るのです。

(例)成年被後見人が悪徳商法の被害にあった場合でも、成年後見人が、その契約を取り消すことが出来るので安心です。また、被後見人の財産に関する法律行為全般の代理権も認められています。

この類型の場合、被後見人が日常的に物事を判断する能力が欠けているためこのように広い権限が認められています。

 

(2)保佐
成年後見の次に広い権限が認められています。
保佐人には被保佐人が行った行為のうち、民法13条1項に記載されている行為(金銭貸借・不動産取引・訴訟・相続の承認、放棄。・遺産の分割 等)の同意権および取消権が認められています。

また、被保佐人本人やその配偶者や子などから請求のあった民法13条1項記載以外の行為についても同意権と取消権が認められています。

さらに、本人からの申立てや本人の同意がある場合には前記の民法13条1項記載の行為を含む、広い範囲の法律行為に対する代理権が認められます。悪徳商法の被害に遭った場合に、その契約を取り消すことが出来るのは、成年後見の場合と同様です。

 

(3)補助
認められる範囲がもっとも狭いのが補助です。

補助人には被補助人の行った行為のうち、あらかじめ、家庭裁判所に申し立てて認められた特定の法律行為について、同意権、取消権が認められます。
ただし、民法13条1項記載の行為のなかの一部に限られます。
この場合にも、悪徳商法による契約を取り消すことが出来ます。
代理権については、本人の同意がある場合に特定の法律行為について認められます。

(例)本人が所有する土地のうち、特定のAという場所の売買といったものです。

 

 

[ 成年後見制度開始の流れ ]

①成年後見制度を利用するためには、表1に記載した3つの類型のなかから、利用するひとの障害の程度に応じたものを選び、家庭裁判所に申立てをします。

◆申立てをすることが出来る者

本人、配偶者、他の類型(補助・保佐・後見)の援助者・監督人、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、市町村長

 

②申立てを受けた家庭裁判所では、医師による鑑定を行い、その申立てが表1の3つの類型のどれに該当するのかを確認します。その結果によっては、申立てをした側の判断とは異なった類型となる可能性があります。たとえば、保佐の審判を希望したのが、鑑定によって、補助の審判を受けてしまうこともあるのです。

このような場合、家庭裁判所は保佐の申立てを補助に変更するか、それとも、審判の申立て自体を取り下げるか、聞いてきますので、申立てをした側が判断をすることになります。

なお、裁判所が鑑定を行うのは、後見と保佐の審判についてだけであって、補助の審判については行いません。
(ケースによっては、補助の審判を申し立てても、医師 の鑑定が行われることもあります。)

 

③申立てが3つの類型のどれに該当するのかを確認したあと、家庭裁判所が審判を下します。そして、申立てをしたひとにかわって、財産の管理や各種福祉サービスの利用の手続きを行う、成年後見人と、場合によっては、その行動を監督する成年後見監督人を選任します。成年後見制度による支援が開始されるのはこの時点からとなります。

 

ひとこと

成年後見の申し立ては、相続に関連したものが多いようです。
遺言状がない場合には、遺産分割協議を行う必要があります。
しかし、遺産分割協議は、相続人全員の意見が一致しなければいけないこととなっています。そのため、相続人の中に認知症の方がいた場合には、遺産分割協議を行うことができません。このような場合に、成年後見人の選任を行う必要があるのです。